2014年8月12日星期二
<イラク>「明日どこに行けば…」イスラム国に追われ
気温40度を超える炎天下、イラクの少数民族シャバクの一家5人が、幹線道路沿いの建物の陰で一息ついていた。北部クルド人自治区の中心都市アルビル。モスル郊外の故郷は6月にイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の手に落ちた。2カ月を超える流転の生活で、所持金は底を突いた。「明日はどこに行けばいいのか」。ラヒア・マフムードさん(40)は途方に暮れた。長男フセイン君(2)が母親の腕の中で泣き出した。
シャバクは16世紀からイラク北部モスルに定着。多くはイスラム教にキリスト教の要素が加わったとされる宗教の信者だ。
記者がアルビル入りした10日、約40キロ西では米軍がイスラム国の部隊を空爆し、地上ではクルド人部隊が戦っていた。住民によると、イスラム国が自治区に近いカラコシュに進攻した7日には緊張が高まったが、空爆が始まった8日以降は平静を取り戻した。
しかし幹線道路から一本入ると、イスラム国の支配地域から逃れ、建設途中のビルに身を寄せる人々が散見される。牧畜を営んでいたラヒアさんも避難民の一人だ。6月中旬、イスラム国の戦闘員2人が自宅に来た。ラヒアさんはイスラム国が敵視するシーア派系。「イスラム教徒はこんなことはしない」。口をついた言葉が男たちを逆上させ、銃を突きつけられた。
自宅には2~9歳の4人の子供もいた。「こんな幼子も殺すのか」と言うと、男たちは銃を下ろした。着の身着のまま逃げ出し、自宅や80匹の羊を失った。近くの村々を転々とし、8月上旬にアルビルに来たが、身寄りもなく、路上生活を送るしかなかった。
イスラム国は「抑圧された人々を救い、神の支配を実現する」として、支配地域でのスンニ派の厳格な教義の適用を強制。住民に飲酒や喫煙を禁じ、女性にはニカブ(目以外の全身を覆う黒布)の着用を義務付ける。一方でスンニ派以外のイスラム教徒や異教徒を迫害。支配地域でキリスト教教会が破壊されたり、女性が暴行を受けたりする事案などが起きているほか、クルド人系の宗教少数派ヤジディー教徒が800人規模で殺害・拉致されたとも伝えられている。
仮住まいを見つけた避難民も不安定だ。中学3年生のトーマ・アムルさん(14)は、アルビル北部の中学校の一室で、生後10カ月の双子を含む親戚20人と暮らす。約7000人のキリスト教徒が住むカラコシュ出身だ。6日夜にクルド人部隊が突然撤収し、住民の大半が自治区に逃げた。
キリスト教系の政党がクルド自治政府に依頼し、学校での避難生活が認められた。約15畳の部屋にカーペットを敷いて暮らす。食事は近所の人が差し入れた野菜やパンでまかなう。だが、3週間後に学校が再開されれば、退去を迫られる運命だ。
トーマさんは、カラコシュの教会で宗教儀式を手伝っており、将来は聖職者になりたいと思っている。「イスラム国のことはよく分からない。だけど宗教が説くのは、愛と平和のはずだ」
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